インド経済の動向(4)
平成24年5月18日
前回のインフラ整備、物価、金利、株価に続き、今回はリスク要因、課題を見ます。1. インフレ懸念が継続
インドにおいては、長期間にわたり、インフレ率がインド準備銀行(中央銀行)の目標値である+7%を上回る状態が続いていたという経緯があり、インフレ抑制が大きな課題となっていることは前回もご報告しました。では、直近でのデータではどうなっているのでしょうか。
インド商工省が5月14日発表した4月の卸売物価指数は、前年同月比+7.23%(図表1参照)となり、前月の+6.89%から加速。市場予想の+6.77%を上回り、鈍化が続くとの市場予想に反する結果となりました。
4月の前年同月比+7.23%の上昇は、ンド準備銀行(中央銀行)の目標値である+7%を上回る水準。インド準備銀行(中央銀行)は4月17日に、市場の予想に反して、政策金利のレポレートを▲0.5%ポイント引き下げ、8.00%としたわけですが、インフレ再燃により、今後は金融緩和策をとりづらくなりました。

2. インド経済の課題
インド経済の短期的な課題としては、インフレ抑制から、成長重視へと金融・財政政策を転換する必要があります。これまでは、成長を犠牲にしてもインフレの抑制を重視して来ましたが、今後はインフレ率をにらみつつ成長重視へと、転換が期待されます。但し、4月のインフレ率が予想に反して加速したため、今後、中央銀行としては難しい舵取りを探ることとなります。
また、新興国は初期の発展段階では、財政赤字が継続することが多いのです。インドにおいても財政赤字が続いているわけですが、今後は財政健全化が中期的な課題となります。また、貿易、特に輸出については、製品の多様化が課題となります。これまではインフラの整備が遅れていたため、製造業の発展が遅れていました。インフラ整備を推進し、鉄鋼、電機機械、自動車などを輸出産業として育成することが課題となりますこのほか、包摂的成長、金融・小売りなどの規制緩和についても大きな課題。これらについては、以下、詳しく見てきます。
3. 包摂的成長
包摂的成長(Inclusive Growth)は、第11次5か年計画(2006-10年度)において策定されたスローガン。高成長の恩恵を、農村地域あるいは貧困層にも行きわたらせることを目指しています。では、インドの貧困率はどのように推移しているのでしょうか。図表2の通り、貧困率自体は低下傾向にあります。

インドにおける貧困ラインは、生存に必要なカロリーを摂取するために必要となる最低食料支出と非食糧支出の合計により基準値が設置されています。2004/05年度の貧困ラインは1か月あたりの支出が都市部で538.60ルピー、農村部で356.30ルピー。この定義に基づく貧困率は低下しており、2004年度には全国において27.5%で、農村部と都市部の差も縮小傾向にあります(図表2参照)。
では、都市部と農村部ではどのような割合でしょうか。図表3の通り、インドの貧困層は、人口の7割が居住する農村部の方が比率としては高いのです。貧困率も都市部より農村部の方が高いため、2004年で、貧困層の約75%が農村部にいます。

このような農村の貧困を解決するため、2005年から5年間の予定で開始された「バーラトニルマーン(インド建設)計画」では、2009年までに12万5,000村を電化する、同年までに5万5,067地域に飲料水源を供給する、人口1,000人以上の地域に全天候型道路を建設するなどの目標を掲げました。更に、第12次5か年計画(12-16年度)でも、農村部の生活改善と農業の成長促進を掲げており、包摂的成長を目指しています。
4. 銀行に対する規制緩和
日米欧など外資系企業がインドに進出しようとすると、様々な規制に直面しています。露同市場の硬直性、法制度の未整備のほか、小売など個別の業界においても、多くの規制があります。ここでは、銀行を例にとり、どの程度規制緩和が進んでいるのか見ます。
インドでは、50万ルピー以上の払込資本と準備金を持つ商業銀行を指定商業銀行としており、11年3月末で81行。このうちSBI(State Bank of India)グループ6行と、国有銀行20行を合わせた26行が公共部門銀行であり、預金の約6割を占めます。これに対して、90年よりも前に設立した旧銀行14行と、90年代以降設立の7行を合わせた21行が民間部門銀行、さらに34行の外国銀行があります。両者を合わせた預金残高は全体の約4割。
かつての日本がそうであったように、インドにおいても、銀行の店舗開設については厳しい規制がありました。銀行の店舗数の推移を示したのが図表4。銀行が都市部に支店を開設する際には、同数もしくはそれ以上の支店を農村地域に開設することが求められました。そういった事情もあり、店舗数はSBIグループ及び国有銀行が圧倒的に多いのです。

また、銀行は農業や零細鉱業などの優先部門に一定の信用供与の割り当て(校内銀行は40%、外国銀行は32%)を義務付けられています。また、銀行は預金総額の25%程度を国債など債券で保有することを義務付けられています。
こうした規制により、銀行の健全性が保持されてきた面もありますが、今後は同国の経済成長のため、一定のリスクを摂る必要があります。そのため、金利自由化、出店の自由化、外国銀行の参入、銀行の統合などが進展する見通し。
以上見てきたとおり、インドにおいては、短期的にはインフレ懸念、景気後退懸念などのリスク要因があります。また、中長期的には、インフラ整備を通じた製造業の育成、輸出品目の多様化、労働市場、小売、金融などにおける規制緩和の必要があります。また、法整備の促進、汚職の逓減も必要です。ただ、人口構成が若い点などを考えると、インド株式については、中長期的に期待することができると考えられます。






